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展覧会テキスト_平田星司

同じ場所を巡ってPDF版  https://bit.ly/3pXBLVj

同じ場所を巡って

「Even Drawing」の最初の作品は2008年に制作した.描かれたシーソーの上にシャープペンシルの芯が錘としてのっている作品でその年のある小品展で発表した.その時作品は売れたが,今年の初夏にある事情から再び手元に戻ってきたのでしばらくそのまま壁にかけておくことにした.コロナ禍も続いて夏の間も町は静かだった.時折見るとシーソーの傾く錆びた音が聞こえるような気がした.作品はオブジェでありメディウムでもある芯とそれを含んで描かれたイメージが紙の表面で作用しあうもので,整然と並んだ芯は見る角度により鋭い反射光を放ち紙の内と外の無効を表明する.今回改めてこの小さな作品が何か巨大なものの鏡のように思えた.それもまた仮象に過ぎないとしても,動きだすきっかけにはなる.

午後は川沿いの歩道を歩いた.散歩というよりは必要に迫られて歩いていた.町は東京湾へ注ぐ二つの川を挟む低地帯にある.一方の緩やかに蛇行する川沿いの歩道は狭く,途中から高さ3メートルほどのコンクリートの堤防が1キロほど続く.その間視界は川から遮られている.夏の日差しは白い壁面を照りつけ,その上に歩道脇の木々の黒い影が分身のように揺らめいていた.壁面の向こう側の水の気配を体に感じながら,加えて歩道と木々からなるパースペクティブの中を歩き続けた.やがて浮上するように緩やかな上り坂になり視界は一挙に開ける.大きくカーブした川の全貌が表れる.どこかで魚が跳ねる音が聞こえ,目をやると水面だけがさざめいている.
2021年12月
平田星司

*画中の文字について
シーソーの語源は各国様々だが,反復的な動きや作用面から共通して,Seesaw, Teeter-totterなどは単語や音節の一部を重複する畳語(日本語だと「色々」「数々」「苛々」等)のプロセスが由来だという説もある.畳語は母語の異なる商人の間で自然に発達し,その地に定着した言語であるクレオール語にもみられる.作品のなかの言葉は,畳語を調べているうちに偶然みつけた,カリブ海周辺の国々のクレオール語だが,現在でも使われているのかは分からない.

平田星司 https://seijihirata.tumblr.com

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