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中根秀夫展 作家ステートメント

木々と日々

今回の個展「木々と日々」は、7〜8月に開催した「木戸駅と」展の続編でもある。

木戸駅は福島県双葉郡楢葉町にある常磐線の小さな駅だ。
福島第一原発から20キロ圏内にあり、原発事故直後に町内全域に避難指示が出された。
津波の後始末をする間もなく人々は避難を命じられ、立ち入りが厳しく制限されることになる。2013年9月、偶然にその場所に辿り着いたのだが、目の前に開けた悲しくも美しい風景に心を
強く揺り動かされた。
楢葉町は2015年に避難指示が解除され、震災以降不通となっていた広野~竜田駅間の列車の
運行が再開された。
この美しい土地を再び訪ねてみたいと思った。
初めて木戸駅を降り、以来、撮影のためにこの場所を行き来する。 

オリンピックが開催されるはずだった2020年、TOKYOとFUKUSHIMAの非対称性について
考えている。
コロナ禍に際し、両者にはますます隔たりを感じる。
震災と原発事故の当事者ではなく、しかし同時に福島から送られて来る電気を無自覚に
消費し続けた当事者として、この小さな過疎の地を通して考え続けること。
そして美術家として、その事実に自覚的であり続けること。
「傷」や「痛み」について何度でも問い直すこと。

全ては「日々」のことである。他者(ひと)の悲しみに寄り添うことの「不可能性」について考える。ひとりひとりの場所と時間に、ひとつの像/イメージを与える。
それは言葉であり、また記憶でもある。
その場に開かれた小さなプロセスに小さな言葉が放たれ、
その言葉はあなたの指先に微かに触れる。

2020年10月
中根秀夫

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